
吟遊詩人のキャンプファイヤー
2015年02月11日
Avilionという中世ファンタジーロールプレイングのSIMを紹介していきます。キングアーサー伝説とロードオブザリング(指輪物語)をベースにしたSIMです。
「いろいろなロールプレイ」の記事で紹介したように、Avilionでは戦闘系のイベントだけでなく文化系のイベントも盛んです。
今日は「Bard's Campfire」(吟遊詩人のキャンプファイヤー)に参加しました。物語や詩、音楽などを皆で楽しむ会で、知性にも武勇にも優れるRagerのSが主催しました。

僕は、以前にこのブログで掲載した自作の物語「良心銀行」を少しアレンジして紹介しました。
ある善良なKnightが“良心”を銀行に預けることで、人を騙したり出し抜いたりすることをなんとも思わなくなり、富と権力を得て、ついにはAvilionの王になります。しかし、心の渇きを満たすことができず、預けておいた良心を取り戻し……
というところまでを語り、エンディングを参加者に考えてもらいました。
アメリカやヨーロッパの人たちは、良心をどのように考えるのか、日本人と違うか知りたかったのです。
予想以上に盛り上がって、ほとんどの時間がこのディスカッションに費やされました(他の発表を準備していた人ごめんなさい)。
それらを反映して物語のエンディングを書くという大きな宿題ができましたが、とても興味深い話が聴けて色々と考えさせられるイベントになりました。
親切は友人のSは、僕の英文の定冠詞の使い方などを添削してくれました^^
****************
The Conscience Bank(良心銀行)
Once upon a time, there was a good knight in Avilion. He had a strong conscience, but was not endowed with a talent for sword. He always lost in the first round of the Avilion official sword tournaments. Not only rival rangers, but also colleagues in the knights made fun of him by calling "tinhead without sword skill."
Although he was not respected by anyone, he was satisfied with peaceful life in Avilion. But he reached a turning point. One day, he was strolling in Avilion as usual and encountered a strange old druid at the foot of the riverside cliff.
She said to him, "I will make you a great knight. Come with me!"
He followed her through a steep path and entered a mysterious room in a small stone house on the edge of the cliff. "This is The Conscience Bank. You can not be great because of your strong conscience. Deposit your conscience in the bank and all Avilion Orders will fear you." she said. "Do not be afraid! You are not losing the conscience. I am going to repay double the original amount one year from now."
Depositing his conscience made his heart light.
He never felt any qualms of conscience by cheating others. In Avilion, moneymaking for oneself had been taboo, but he started a business and amassed immense wealth. He stole secret arts from rangers, mages, and rogues, to say nothing of knights. He came to be feared as the strongest warrior. Releasing a balrog, he embarked on dominating Avilion. After purging his opponents and leaving Avilion in complete destruction, finally he became the king of Avilion.
But wealth and power did not satisfy his thirsty mind. He thought, "If she returns my conscience, then wealth and power and conscience is mine! I will enjoy supreme happiness!"
And when he got the double conscience back from her...
****************
この物語のエンディングをぜひ考えてみてください。
「いろいろなロールプレイ」の記事で紹介したように、Avilionでは戦闘系のイベントだけでなく文化系のイベントも盛んです。
今日は「Bard's Campfire」(吟遊詩人のキャンプファイヤー)に参加しました。物語や詩、音楽などを皆で楽しむ会で、知性にも武勇にも優れるRagerのSが主催しました。

僕は、以前にこのブログで掲載した自作の物語「良心銀行」を少しアレンジして紹介しました。
ある善良なKnightが“良心”を銀行に預けることで、人を騙したり出し抜いたりすることをなんとも思わなくなり、富と権力を得て、ついにはAvilionの王になります。しかし、心の渇きを満たすことができず、預けておいた良心を取り戻し……
というところまでを語り、エンディングを参加者に考えてもらいました。
アメリカやヨーロッパの人たちは、良心をどのように考えるのか、日本人と違うか知りたかったのです。
予想以上に盛り上がって、ほとんどの時間がこのディスカッションに費やされました(他の発表を準備していた人ごめんなさい)。
それらを反映して物語のエンディングを書くという大きな宿題ができましたが、とても興味深い話が聴けて色々と考えさせられるイベントになりました。
親切は友人のSは、僕の英文の定冠詞の使い方などを添削してくれました^^
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The Conscience Bank(良心銀行)
Once upon a time, there was a good knight in Avilion. He had a strong conscience, but was not endowed with a talent for sword. He always lost in the first round of the Avilion official sword tournaments. Not only rival rangers, but also colleagues in the knights made fun of him by calling "tinhead without sword skill."
Although he was not respected by anyone, he was satisfied with peaceful life in Avilion. But he reached a turning point. One day, he was strolling in Avilion as usual and encountered a strange old druid at the foot of the riverside cliff.
She said to him, "I will make you a great knight. Come with me!"
He followed her through a steep path and entered a mysterious room in a small stone house on the edge of the cliff. "This is The Conscience Bank. You can not be great because of your strong conscience. Deposit your conscience in the bank and all Avilion Orders will fear you." she said. "Do not be afraid! You are not losing the conscience. I am going to repay double the original amount one year from now."
Depositing his conscience made his heart light.
He never felt any qualms of conscience by cheating others. In Avilion, moneymaking for oneself had been taboo, but he started a business and amassed immense wealth. He stole secret arts from rangers, mages, and rogues, to say nothing of knights. He came to be feared as the strongest warrior. Releasing a balrog, he embarked on dominating Avilion. After purging his opponents and leaving Avilion in complete destruction, finally he became the king of Avilion.
But wealth and power did not satisfy his thirsty mind. He thought, "If she returns my conscience, then wealth and power and conscience is mine! I will enjoy supreme happiness!"
And when he got the double conscience back from her...
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この物語のエンディングをぜひ考えてみてください。
英語の背後にあるロジックの違い
2015年02月03日
Avilionという中世ファンタジーロールプレイングのSIMを紹介していきます。キングアーサー伝説とロードオブザリング(指輪物語)をベースにしたSIMです。
仕事で疲れて帰ってきて、Avilionでアイリッシュ音楽を聴きながらウィスキーを飲み、友達とおしゃべりすると、とても癒されます。

今日はオランダから来ているエルフのRと英語の背後にあるロジックの違いについて話しました。彼女は母国語のオランダ語のほかに英語(大学の授業はすべて英語で行われたそうです!)、フランス語、ドイツ語、さらにエルフ語2種類を話せるマルチリンガル!
オランダ人がマルチリンガルなのは大国に挟まれた悲しい歴史的な経緯によるところが大きいのだそうです。
Avilionの公用語は英語ですが、彼女によると同じ英語でも背後にあるロジックが国によってまったく異なるそうです。僕は大学受験のためだけに英語を勉強した、RLでは使う機会のない典型的な日本人ですが、やはりロジックが欧米の人と違うとのこと。彼女はその違いを理解しているのでコミュニケーションがとてもスムーズにでき、僕の英語力がアップしたと錯覚してしまいます。
彼女にとって、世界中のいろいろな国で使われている英語の背後にあるロジックの違いを知ることがAvilionの楽しみの一つだそうです。
家で酒を飲みながら気軽に異文化交流ができるのがSLの素晴らしいところです。
仕事で疲れて帰ってきて、Avilionでアイリッシュ音楽を聴きながらウィスキーを飲み、友達とおしゃべりすると、とても癒されます。

今日はオランダから来ているエルフのRと英語の背後にあるロジックの違いについて話しました。彼女は母国語のオランダ語のほかに英語(大学の授業はすべて英語で行われたそうです!)、フランス語、ドイツ語、さらにエルフ語2種類を話せるマルチリンガル!
オランダ人がマルチリンガルなのは大国に挟まれた悲しい歴史的な経緯によるところが大きいのだそうです。
Avilionの公用語は英語ですが、彼女によると同じ英語でも背後にあるロジックが国によってまったく異なるそうです。僕は大学受験のためだけに英語を勉強した、RLでは使う機会のない典型的な日本人ですが、やはりロジックが欧米の人と違うとのこと。彼女はその違いを理解しているのでコミュニケーションがとてもスムーズにでき、僕の英語力がアップしたと錯覚してしまいます。
彼女にとって、世界中のいろいろな国で使われている英語の背後にあるロジックの違いを知ることがAvilionの楽しみの一つだそうです。
家で酒を飲みながら気軽に異文化交流ができるのがSLの素晴らしいところです。
Frozen
2014年12月18日
Avilionという中世ファンタジーロールプレイングのSIMを紹介していきます。キングアーサー伝説とロードオブザリング(指輪物語)をベースにしたSIMです。
最近寒い日が続きますが、Avilionにも本格的な冬が訪れ、川も木々も凍りつきました。
そして突然、氷の城が生まれました!

城内にはダンスボールがあります。日本の夜の時間帯はAvilionは閑散としていますので、氷の城で2人きりでダンスが楽しめるかもしれません(Avilionにはドレスコードがありますので中世服を着てお楽しみください)。
城の裏には幻想的な隠れスポットもあります。


ところで、中世ファンタジー好きの僕は、もちろん『Frozen』『アナと雪の女王』を観ました(DVDですが)。
日本語版と英語版を観たのですが、随分と違った印象を受けました。日本語版のセリフは英語版を「翻訳」したものではありません。かなり作り変えられています。
例えば大ヒットした主題歌『Let it go』『レット・イット・ゴー~ありのままで~』。
「Let it go」は、「ほっておけ」「忘れろ」「あきらめろ」といった意味で、大きな悩みを抱えていたり、怒りにさいなまれている人を励ますときに使われるフレーズです。
凍らせる魔法を使えるという秘密を人々に知られてしまったエルサは、
「Let it go, let it go
Can't hold it back anymore
Let it go, let it go
Turn away and slam the door
I don't care
what they're going to say」
「ほっておけ、あきめろ
もう隠してはおけない
ほっておけ、忘れろ
追い払って、ドアを閉めろ
私は気にしない
彼らが何を言おうと」
と歌って氷の城に閉じこもってしまうのですが、
日本語版では、
「ありのままの
姿見せるのよ
ありのままの
自分になるの
何も
怖くない」
と、まったく違う歌詞になっています。
これはもちろん誤訳ではなくて、日本でヒットするように、意図的に意味の変更が行われたのだと思います。
自己主張をすることが良しとされるアメリカと、
空気を読んで周りに合わせることが良しとされる日本では、
心に響くセリフは違ってきます。
主張がぶつかって悩んだり、怒ったりすることが多いアメリカでは、
「Let it go, let it go」とイディナ・メンゼルの力強い歌声で励まされ、
自分を押し殺さなければいけないことが多い日本では、
「ありのままの」と松たか子の澄んだ歌声で癒されるのでしょう。
最近寒い日が続きますが、Avilionにも本格的な冬が訪れ、川も木々も凍りつきました。
そして突然、氷の城が生まれました!

城内にはダンスボールがあります。日本の夜の時間帯はAvilionは閑散としていますので、氷の城で2人きりでダンスが楽しめるかもしれません(Avilionにはドレスコードがありますので中世服を着てお楽しみください)。
城の裏には幻想的な隠れスポットもあります。


ところで、中世ファンタジー好きの僕は、もちろん『Frozen』『アナと雪の女王』を観ました(DVDですが)。
日本語版と英語版を観たのですが、随分と違った印象を受けました。日本語版のセリフは英語版を「翻訳」したものではありません。かなり作り変えられています。
例えば大ヒットした主題歌『Let it go』『レット・イット・ゴー~ありのままで~』。
「Let it go」は、「ほっておけ」「忘れろ」「あきらめろ」といった意味で、大きな悩みを抱えていたり、怒りにさいなまれている人を励ますときに使われるフレーズです。
凍らせる魔法を使えるという秘密を人々に知られてしまったエルサは、
「Let it go, let it go
Can't hold it back anymore
Let it go, let it go
Turn away and slam the door
I don't care
what they're going to say」
「ほっておけ、あきめろ
もう隠してはおけない
ほっておけ、忘れろ
追い払って、ドアを閉めろ
私は気にしない
彼らが何を言おうと」
と歌って氷の城に閉じこもってしまうのですが、
日本語版では、
「ありのままの
姿見せるのよ
ありのままの
自分になるの
何も
怖くない」
と、まったく違う歌詞になっています。
これはもちろん誤訳ではなくて、日本でヒットするように、意図的に意味の変更が行われたのだと思います。
自己主張をすることが良しとされるアメリカと、
空気を読んで周りに合わせることが良しとされる日本では、
心に響くセリフは違ってきます。
主張がぶつかって悩んだり、怒ったりすることが多いアメリカでは、
「Let it go, let it go」とイディナ・メンゼルの力強い歌声で励まされ、
自分を押し殺さなければいけないことが多い日本では、
「ありのままの」と松たか子の澄んだ歌声で癒されるのでしょう。
Pixie(小さな妖精)とHatchie(龍の子ども)
2014年10月18日
Avilionという中世ファンタジーロールプレイングのSIMを紹介していきます。キングアーサー伝説とロードオブザリング(指輪物語)をベースにしたSIMです。
AvilionにはPixie(いたずら好きの小さな妖精)やHatchie(龍の子ども)がいて、コミュニティを楽しく和やかにしてくれます。

彼らは何百歳という年齢で、人間よりずっと年を取っているのですが子どもです。

だから子ども言葉をつかいます。
たとえば
I am very young
は
i is berry young
I think
は
i fink
Drows have white hair
Maybe they are old
は
Dwoow hab white hawr
meybe dey owld
といった具合にわざとスペルや文法を間違えて使います。
そして、会話がかみ合いません。
仕事で疲れて帰ってきて、ウィスキーを飲みながら、そんなかみ合わないおしゃべりをするのも、とても楽しい息抜きです^^
AvilionにはPixie(いたずら好きの小さな妖精)やHatchie(龍の子ども)がいて、コミュニティを楽しく和やかにしてくれます。

彼らは何百歳という年齢で、人間よりずっと年を取っているのですが子どもです。

だから子ども言葉をつかいます。
たとえば
I am very young
は
i is berry young
I think
は
i fink
Drows have white hair
Maybe they are old
は
Dwoow hab white hawr
meybe dey owld
といった具合にわざとスペルや文法を間違えて使います。
そして、会話がかみ合いません。
仕事で疲れて帰ってきて、ウィスキーを飲みながら、そんなかみ合わないおしゃべりをするのも、とても楽しい息抜きです^^
赤毛のアンの翻訳比較
2014年10月16日
朝ドラの『花子とアン』の影響で、いまさらながら『Anne of Green Gable』(赤毛のアン)を読みました。著作権が切れているのでkindle版の原書は94円!です。

とても素晴らしい、美しい物語で、世知辛い世の中で心にたまった泥を洗い流してくれました。
子ども向けの本だと思っていたのですが、表現が豊かで凝っていて、大人向けの歴とした文学です。特にカナダの美しい自然の描写は、この世に生まれたことに感謝したくなるほど、心を豊かに、穏やかに、清らかにしてくれます。
ぜひ原書で読むことをおすすめします。やさしい英文ではありませんが、苦労して読む価値は十分にあります。言葉を吟味しつくしてつくられた文章は、日本語に翻訳するのがとても難しいと思います。どんなに優れた翻訳でも、原書の意味、ニュアンスを伝えきることはできません。
『赤毛のアン』は、『花子とアン』のモデルとなった村岡花子さんのほかにも、たくさんの方が翻訳しています。
kindleでは冒頭をサンプル版で読めるので、以下の箇所を比較してみましょう。
……it was reputed to be an intricate, headlong brook in its earlier couse through those woods, with dark secrets of pool and cascade; but by the time it reached Lynde's Hollow it was a quiet, well-conducted little stream, for not even a brook could run past Mrs.Rachel Lynde's door without due regard for decency and decorum;……
バイブルともされている村岡花子訳では
「森の奥の上流のほうには思いがけない淵や、滝などがあって、かなりの急流そうだが、リンド家のくぼ地に出ることには、流れの静かな小川となっていた。それというのも、レイチェル・リンド夫人の門口を通るときには、川の流れでさえも行儀作法に気をつけないわけにはいかないからである。」
中村佐喜子訳では
「この小川は、森をぬける上流の方では、思いがけないところに淵や滝があったりして、あぶなっかしい、荒っぽい流れである。けれど、レイチェル・リンド夫人の門口を通るときは、小川でさえも礼儀作法に気をつけずにいられないらしく、窪地にさしかかる頃は、静かな、おとなしい流れになっていた。」
神山妙子訳では
「森をぬける上流の方には、黒ずんだ淵や滝がひそんでいることもあって、相当いりくんだ、手に負えない流れといわれていたが、「リンドの窪地」にくるころには、静かな、非のうちどころのない小川になっていた。小川でさえ、礼儀作法を無視して、レイチェル・リンド夫人の門口を流れることはできなかったからだ。」
レイチェル・リンド夫人の性格を自然描写を織り交ぜながら見事に表している箇所ですが、川の描写が3人でずいぶんと違います。
「dark secrets」をどう訳すかで、まず大きな違いが出ています。
直訳すると「暗い秘密」ですが、村岡花子訳と神山妙子訳は、それを「思いがけない」と訳し、神山妙子訳では「黒ずんだ~ひそんで」としています。
ここでは、前提として「reputed」(いわれている)と書かれているので、作者自身は上流部に行ったことがないことが重要です。行ったことがないのに「思いがけない」を使うのには違和感があります。
行ったことはないけれど、上流部は森の中の“暗い”ところに淵や滝(pool and cascade)がある、そんな“秘密”を持つ入り組んだ(intricate)急流(headlong brook)だといわれていて、それが作者が見ている場所で静かでおとなしい小さな流れ(quiet, well-conducted little stream)になっているのは、この文章の後に続くのですが、詮索好きのレイチェル・リンド夫人がなんでも明るみに(ferreted out)てしまうことを小川も気が付いているからだろうと推測しているのです。
secrets(秘密)をferreted out(探し出す)で受ける肝心の面白いところが、翻訳では失われてしまっています。
『Anne of Green Gable』は、ぜひ原書で味わってほしい1冊です。難しい言葉もたくさん出てきますが、kindleなら単語を一押しで辞書を引けます。
ところで、アンたちがキングアーサーごっこをして遊んでいますが、カナダでもキングアーサー伝説は昔から人気があるようです。キングアーサー伝説とロードオブザリング(指輪物語)をベースにしたAvilionにもカナダ人がたくさんいます。

とても素晴らしい、美しい物語で、世知辛い世の中で心にたまった泥を洗い流してくれました。
子ども向けの本だと思っていたのですが、表現が豊かで凝っていて、大人向けの歴とした文学です。特にカナダの美しい自然の描写は、この世に生まれたことに感謝したくなるほど、心を豊かに、穏やかに、清らかにしてくれます。
ぜひ原書で読むことをおすすめします。やさしい英文ではありませんが、苦労して読む価値は十分にあります。言葉を吟味しつくしてつくられた文章は、日本語に翻訳するのがとても難しいと思います。どんなに優れた翻訳でも、原書の意味、ニュアンスを伝えきることはできません。
『赤毛のアン』は、『花子とアン』のモデルとなった村岡花子さんのほかにも、たくさんの方が翻訳しています。
kindleでは冒頭をサンプル版で読めるので、以下の箇所を比較してみましょう。
……it was reputed to be an intricate, headlong brook in its earlier couse through those woods, with dark secrets of pool and cascade; but by the time it reached Lynde's Hollow it was a quiet, well-conducted little stream, for not even a brook could run past Mrs.Rachel Lynde's door without due regard for decency and decorum;……
バイブルともされている村岡花子訳では
「森の奥の上流のほうには思いがけない淵や、滝などがあって、かなりの急流そうだが、リンド家のくぼ地に出ることには、流れの静かな小川となっていた。それというのも、レイチェル・リンド夫人の門口を通るときには、川の流れでさえも行儀作法に気をつけないわけにはいかないからである。」
中村佐喜子訳では
「この小川は、森をぬける上流の方では、思いがけないところに淵や滝があったりして、あぶなっかしい、荒っぽい流れである。けれど、レイチェル・リンド夫人の門口を通るときは、小川でさえも礼儀作法に気をつけずにいられないらしく、窪地にさしかかる頃は、静かな、おとなしい流れになっていた。」
神山妙子訳では
「森をぬける上流の方には、黒ずんだ淵や滝がひそんでいることもあって、相当いりくんだ、手に負えない流れといわれていたが、「リンドの窪地」にくるころには、静かな、非のうちどころのない小川になっていた。小川でさえ、礼儀作法を無視して、レイチェル・リンド夫人の門口を流れることはできなかったからだ。」
レイチェル・リンド夫人の性格を自然描写を織り交ぜながら見事に表している箇所ですが、川の描写が3人でずいぶんと違います。
「dark secrets」をどう訳すかで、まず大きな違いが出ています。
直訳すると「暗い秘密」ですが、村岡花子訳と神山妙子訳は、それを「思いがけない」と訳し、神山妙子訳では「黒ずんだ~ひそんで」としています。
ここでは、前提として「reputed」(いわれている)と書かれているので、作者自身は上流部に行ったことがないことが重要です。行ったことがないのに「思いがけない」を使うのには違和感があります。
行ったことはないけれど、上流部は森の中の“暗い”ところに淵や滝(pool and cascade)がある、そんな“秘密”を持つ入り組んだ(intricate)急流(headlong brook)だといわれていて、それが作者が見ている場所で静かでおとなしい小さな流れ(quiet, well-conducted little stream)になっているのは、この文章の後に続くのですが、詮索好きのレイチェル・リンド夫人がなんでも明るみに(ferreted out)てしまうことを小川も気が付いているからだろうと推測しているのです。
secrets(秘密)をferreted out(探し出す)で受ける肝心の面白いところが、翻訳では失われてしまっています。
『Anne of Green Gable』は、ぜひ原書で味わってほしい1冊です。難しい言葉もたくさん出てきますが、kindleなら単語を一押しで辞書を引けます。
ところで、アンたちがキングアーサーごっこをして遊んでいますが、カナダでもキングアーサー伝説は昔から人気があるようです。キングアーサー伝説とロードオブザリング(指輪物語)をベースにしたAvilionにもカナダ人がたくさんいます。